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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)2626号 判決 1956年10月06日

原告 竹本利八

被告 飯塚徳三郎

主文

(一)  別紙<省略>物件目録記載の土地につき原告が賃貸人荒川恒一、賃料一ケ月坪当り金七円、期間昭和二五年八月一日から昭和四〇年までなる賃借権を有することおよび右土地の東側に隣接し被告が荒川恒一から賃借中なる土地と右土地との境界が右目録記載の(イ)点と(ハ)点とを結ぶ直線であることを確認する。

(二)  被告は前項の(イ)点と(ハ)点とを結ぶ境界線上に設置してある竹垣および界標を収去したり、損壊したりしてはならない。

(三)  被告は別紙物件目録記載の土地内に濫りに立ち入つてはならない。

(四)  被告は原告に対し前項の土地内に設置した物干杭を収去すること。

(五)  被告は原告が第三項の土地の東南隅に設置してある井戸を使用することを妨げてはならない。

(六)  原告のその余の請求はこれを棄却する。

(七)  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一ないし第五項、第七項同旨および被告は原告に対し主文第三項記載の原告の占有地内にしてその東側南部に侵入して建築した出窓を収去することなる判決を求める旨申し立て、その請求原因として、(一)別紙物件目録記載の土地を含む東京都杉並区下高井戸一丁目三八番地(宅地二一坪)は、昭和二五年八月一日原告が訴外荒川恒一から、賃料一ケ月坪当り金七円、期間昭和二五年八月一日から昭和四〇年までなる約定にて賃借したものであるが、被告は別紙物件目録記載の土地についての原告の賃借権を否認し、右は被告の賃借地であると主張するので、原告が右土地につき賃借権を有することの確認を求める。また被告は右土地の東側に隣接した土地一八坪を荒川恒一から賃借しており、被告の賃借地と原告の賃借地との境界は、右目録記載の(イ)点と(ハ)点とを結ぶ直線であるのに、被告は右境界を否認しているから、右境界線の確認を求める。(二)現に右境界線上に設置しある竹垣および右境界線の両端に設置してある右の界標は原告の占有にかかるところ、被告は右物件を収去し、または損壊するおそれがあるから、予め右占有妨害行為の禁止を求めるものである。(三)主文第一項記載の土地は原告の占有なるところ、被告は濫りに右土地内に立ち入るおそれがあるから、予め右占有妨害行為の禁止を求めるのである。(四)被告は、原告の右占有地内に、物干杭を設置し、また前記(一)の境界線の南端附近の被告借地に台所を増築し、その西側に縦約三尺、横約五尺、厚さ約五寸の出窓をつけて、右出窓の部分を原告の占有地内に侵入せしめ、よつてそれぞれ右占有を妨害しているから、被告に対し右物干杭および出窓の収去を求める。(五)原告は、前記(一)の原告の借地東南隅に設置してある井戸を右土地の賃借以降占有使用しているのであるが、被告は、右井戸は被告のみがひとり使用できるもので、原告は使用してはならないと争うので、予め右使用に対する妨害行為の禁止を求める。よつて本訴請求におよんだと述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は原告の請求はいずれもこれを棄却する、との判決を求め、答弁として、原告の請求原因(一)ないし(五)の事実はすべて争う。別紙物件目録記載の土地は被告が荒川恒一から賃借したものであり、井戸もまた被告のみが使用してきたのであると述べた。<立証省略>

理由

よつて考えるに、成立に争ない甲第三号証、第五号証の一、二、証人荒川恒一の証言を綜合すれば、原告は昭和二五年八月一日、別紙物件目録記載の土地を含む東京都杉並区下高井戸一丁目三八番地所在の宅地二一坪を賃料一ケ月坪当り金七円、期間昭和二五年八月一日から昭和四〇年までと定めて、訴外荒川恒一から賃借したことその際右賃借地の東側は、右目録記載の(イ)点と(ハ)点とを結ぶ直線によつて隣地と区劃せられていたこと、その後昭和二十六年被告は右(イ)(ハ)線から東側一八坪(右賃借の際、被告立会のもとに実測した結果は、一八坪に約一勺の不足が生じたけれども、一八坪として。)を賃借したこと、その際被告は右(イ)(ハ)線が原告の借地と被告の借地との境界であることを認容していたことを認定することができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。よつて原告の(一)の請求はこれを認容することができる。つぎに右甲第五号証の一、二、証人荒川恒一、竹本ミツの各証言と弁論の全趣旨を綜合すれば、原告は、荒川から右土地を賃借した際、右(イ)(ハ)の両地点に境界標を設置し、またその後右(イ)(ハ)線上に竹垣を設置したこと、しかるに被告は昭和三〇年四月七日頃右竹垣を取り毀し、原告の占有にかかる右借地内にあつた物干杭を抜いて、右土地内に物干杭を設置したので、その後原告は右竹垣を修理したこと、被告は現在、右(イ)(ハ)の境界線を争い、原告の右占有地に濫りに立ち入るおそれがあることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。そうすると、被告に対し右境界標および竹垣の収去または損壊の禁止、原告の右占有地への立入禁止を求める原告の(二)ならびに(三)の各請求および(四)の請求中、被告の設置した右物干杭の収去を求める部分は理由がある。右(四)の請求中、出窓の収去を求める部分について考えるに、証人竹本ミツの証言によれば原告主張の出窓は地上約三尺のところに縦約三尺、横約六尺の大きさに附設せられ、前記認定の(イ)(ハ)の境界線から、四、五寸だけ原告の右占有地内に張り出していることが認められ、右事実によれば、被告は右出窓の設置により、原告の右土地の占有権を侵害することが皆無とはいえないけれども、右侵害の程度は極めて少いというべく、右些少の侵害と、右侵害を排除するため出窓を収去することにより被告の受ける苦痛、損害とを比較するに、後者の方が余りに大であることが明らかであるから民法第一条の精神にのつとり、本件のごとき場合、右出窓の収去義務を否定するをもつて相当と考える。よつて右請求部分は棄却されるべきである。つぎに証人荒川恒一および竹本ミツの各証言と弁論の全趣旨を綜合すれば、原告主張の井戸は、原告が右土地を賃借したときから、これを占有使用していること、被告は現に、右井戸は被告のみが使用できるもので、原告は使用してはならないと争つていることが認められるから、被告に対し、原告の右井戸の使用を妨害することの禁止を求める原告の(五)の請求も理由がある。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 杉田洋一)

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